以前アルゼンチンのクラブシーンについて記事を書かせて頂いたmionnです。
《前回の記事》
ベースミュージックの「新次元」を予感させる、アルゼンチンのクラブシーンについて
たくさんの方に記事を読んで頂き大変光栄です。それ以降アルゼンチンのクラブシーンを更に知りたいという好奇心で様々なパーティーに参加しました。
参加するだけでなくDJをし、またパーティーオーガナイズもしました。1年間クラブシーンを見て思ったこと、感じたことそして事実を書き留めました。前記事の続編として是非ご覧ください。
これはイタリアのサウンドシステムチームKernel Panikの南米レイブプロジェクト“SOUTH SIDE MISSION”のビデオです。
彼らは2006年にこのプロジェクトを始動し、サウンドシステムを乗せた何代ものトラックともにアルゼンチンを訪れました。アルゼンチンからパラグアイそしてブラジルに旅をし、レイブを主催してきました。80年代後半にUKで生まれアンダーグラウンド・レイブムーブメントは、ヨーロッパのみならず、この南米の大陸にもありました。
彼らは、この大陸にレイブのポテンシャルを見出しこのプロジェクトを始動させました。このポテンシャルの源流にはヒッピーカルチャーがあり、その根底にインディオ(先住民)の自然崇拝や精神文化があるんじゃないかと思います。事実、南米には、まだまだ先住民の血筋を持つ者が多く、彼らは今でも慣習に倣った生活をしています。(ブラジルは詳しく分からない)また彼らは、ペルー、チリ、アルゼンチン北部(サルタ、フフイ、コルドバ) といった山岳地帯に住んでいることが多いです。
Hardtek/Pumpcoreのプロデューサー、STZ Steaotekと交わしたチャットによると、「首都でレイブをやるのは、以前に比べてだいぶ難しくなった。ただ、今でも首都でやれないことはない。拠点を首都から西、南の郊外に移したことで変化があった。それは客の質だ。以前まではとにかくレイブパーティーが好きという奴が多かった。だが、首都から離れたことでその数は少なくなった。場所にもよるけど、治安警察もましにはなったけどね」とのことでした。
具体的なレーベルやパーティーを紹介すると、有名どころで言えばRound Wave Crusher主宰のHard Sprit(レーベルではなくCrew)やArtek Recordsをはじめ、TribeやMental 、RaggatekレーベルのDigitalTek23、そしてDrum&BassやBreakcoreレーベルのKiller Drumz 、の国産レーベルが有名です。また、Revolución RaveやAquí y Ahora、HardRave、Matrakなどがレイブパーティーをしています。(もうどれがCrew、レーベル、パーティー名なのかが本当分からない)
これらのワードをFacebookにかけると、芋づる式に情報が出てくるので興味ある方は是非~
これは、クラブミュージックではなく、ポピュラーミュージックに分類されるのですが、番外編として1つ気になったジャンルCuarteto(クアルテート)を紹介したいと思います。
国内ではレゲント、クンビア、ラテンロック、また以前紹介したラテントラップがポピュラーミュージックと言えるでしょう。広大な土地を持つアルゼンチンは、州によって異なった文化があります。このCuartetoはアルゼンチン中央に位置するコルドバ州で生まれたクンビアの一つとしてのポピュラーミュージックです。ラテン音楽といえばBPM100や130前後が広く一般的です。それに対してこのCuartetoはBPM140~170でとにかく速いです。(ここ重要)
Wikipediaによると、Cuartetoは1940年にアルゼンチンのコルドバ州で誕生しました。
最初は身分の低い者達で踊られていましたが、90年代までには身分関係なく広く踊られるようになりました。その後、他の州やブエノスアイレスそして世界中に普及します。私は国内旅行の時に、このCuartetoに出会いました。
コルドバ州やサルタ・フフイ州(上の写真)といった北の地方に行った際に街中でクンビアと共に街中でよく耳にしました。ブエノスアイレスで聞いた覚えはあまりないです。パソコンがない時代にピアノ、アコーデオン、バイオリン、コントラバス、ボンゴのバンドスタイルで生まれた音楽なので今でもそのスタイルが主流です。
インドネシアのFunkotみたいにすごくローカル性が高いです。SoundcloudよりもYoutubeの方が一般的なのでYoutubeにMixや楽曲が多くあります。Soundcloudにもリミキサーと呼ばれる人がちらほらいますが、極少数で最後にアップロードしたのが2,3年前だったりします。
近年Baile FunkもBPMが上がったりしていますが、速いラテン音楽って結構珍しいと思います。速いローカルダンスミュージック好きな方には是非オススメです。いつか日本のクラブでもかけられたらな~と思います。
アルゼンチンのクラブは日本みたいにDJ中突然テキーラがとんでくることはまずありません。そもそもちっちゃなお酒が存在しないのです。
ビール、モヒート、カクテルが一般的ですが、日本みたいに種類もそんなに多くないです。価格は80ペソ~120ペソ(日本円で240円~360円)とかなり安いです。それでもバーやキオスコ(コンビニ)に比べると割高のため、バーや家で前飲みして夜中の1時くらいからクラブに行くのが一般的だそうです。
以下は、実際に自分が参加したパーティや、主催したパーティー「𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲」などのフライヤーと動画です。ぶれぶれなカメラワークですが、パーティーの雰囲気だけでも是非ご覧下さい。
〇TRRUENO 28DIC
TRRUENOはBungalovv主宰(以前間違えてAstrosukaって書きました)のアルゼンチンのエクスペリメンタルレーベルです。クラブイベントというよりは国内で実験的なパフォーマンスをやっているアーティストの実験的なパフォーマンスパーティーです。この動画は、インスタレーションアーティストのReina CaiとハイブリッドクラブのOkte、そしてノイズユニットLa Muerteのコラボパフォーマンスです。
〇HiedraH Club de Baile #57
〇Agvaritual
AGVAはアルゼンチンのトライバルメタルレーベル。2015年に誕生し、アルゼンチンのローカルDJを巻き込んで、去年から定期的なレーベルパーティーを始動しました。
僕も一度パーティーに呼ばれDJをさせてもらいました。初年のAgvaritualを締めくくるパーティーですごく緊張したのを今でも覚えています。レーベルの規模はまだまだ小さいですが、メキシコのNAAFIや隣国ウルグアイのSALVIATEKそして日本のCHEMICAL MONSTERSとも交流があり、アルゼンチンで今一番勢いに乗っているレーベルだと思います。先日リリースした「𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲 compilation album」には全メンバー参加してもらっています。
〇NETZ #2 : ηεẘ ღ℮∂ї@ ⓟⓐⓡⓣⓨ
グラフィックデザイナー/プロデューサーOblinof主催のパーティー。他のパーティーが首都ブエノスアイレスで開催されるのに対し、このNETZはラプラタという首都から1時間離れた街で開催しています。国内のChiptuneやライブコーディングなどインターネットなアーティストや、Voyagerというラプラタを拠点としているグラフィックマガジンがインスタレーションをしています。
インターネットを代名詞にしていますが、ローカル色が強いのがいい塩梅です。このNETZでもDJをさせてもらいました。Oblinofのインターネットなグラフィティはかっこよく𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲ではVJをしてもらいました。またコンピにも参加してもらっています。
〇FINEST FANTASY
Lhgchps主宰のFINEST FANTASYと協力して誕生日にパーティーをやりました。UKからKlahrkが友達のRoxasに会いに一週間ブエノスアイレスに滞在する、と聞いて滞在日程と偶然重なりブッキングしました。(これ本当にたまたま)
KlahrkとRoxasのユニット”quavis”もここから誕生しました。友達のEqalやEvarそしてHalpeにもDJしてもらう予定でしたがHalpeは急遽キャンセルになってしまい、代わりに一番見たかったChloに出演してもらいました。そんな濃いメンツのなか自分も人生初DJでした。(初DJに外タレ扱いのJPN)
430というアジアレストランの地下のバーに機材、スピーカーを持ち寄りDIY的にやりました。
〇𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲
初の主催パーティーをしました。この1年間出会ったアーティストを招集し面白そうな組み合わせでの全B2Bパーティー。僕自身ジャンルにかなり雑食で、様々なパーティーに足を運びましたが、一度に見たいな~という思いをずっと持ち続けていました。FINEST FANTAY、AGVA、TRRUENO、HARD SPRIT、4つの異なったジャンルコミュニティーに参加してもらい、普段はそれぞれが独立してパーティーをしています。
HARD SPRITとはこのパーティーまで関わりもなくコンタクトもしたことなかったです。ただ、どうしても最後に一目見たいという思いでブッキングすると、快く受けてくれました。VJは先程紹介したOblinofとEqalの双子の弟Nahuelにやってもらいました。また、フライヤーは、友達のAriadnaに依頼しました。
もともと頭の中に構想はありましたが、勉強の方が忙しく1月11日(金)開催予定で動き出したのが10月半ばでした。(遅い)せめて1ヶ月前にはラインナップを出したいな~と思っていましたが、急遽アーティスト側からキャンセルがあったりして実際このメンバーで告知解禁できたのが開催一週間前でした。ギリギリまで参加できるか分からないアーティストが多かったので、ブッキングはグループを作らずそれぞれのアーティストと個人チャットでやりとりをしました。個人チャットのブッキング、フライヤーのデザイナーやVJまた会場側とのやりとりをすべてスペイン語でやり遂げたことは本当自信になりました。
そして開催3日前、せっせと告知しているとなんと会場側が「その日は無理だ」と急遽キャンセルをしてきました。(こーゆうとこアルゼンチンぽい)
最初唖然で言葉が出ませんでしたが、1月18日(金)に日程を移すと言われました。幸い他のアーティストもその日は何も予定なく何より僕の帰国5日前で、もし一週間早く航空券を買っていたらと考えると本当恐ろしいです。開催当日までハラハラしており、いざ始まってからもタイムテーブルのやりとりで忙しくあっという間でしたが、お客さんもたくさん来てくれて何とか無事に終わってくれて本当よかったです。最後にいい思い出ができました。
2018年6月、アルゼンチンの人工中絶を合法化する法案が下院を通過しました。
その時街は歓喜の渦に包まれ、緑色のバンダナを手に友達、恋人と抱き合う光景がタイムラインに流れてきたことを今でもよく覚えてきます。人工中絶合法化(Aborto Legal)は今日アルゼンチンにおいて一番の社会テーマであり、それはエネルギッシュな若い世代を中心に興りました。アルゼンチンのクラブシーンを作る彼らにとってもこのAborto Legalは切っても切り離せないテーマです。そもそもアルゼンチンは、マイノリティー(LGBTやフェミニスト)の力が強く、社会、政治に対するデモがすごく多いです。
少数的なアイデンティティを持つ者、いわゆる社会的マイノリティーの叫びを顕在化し促進することを掲げ、2013年にバイレレーベルHiedraHが誕生しました。「アバンギャルドはいつも社会の外側から興るが、社会の波に飲まれないために抗い続け必要がある」と彼らはマニフェストします。Aborto Legalの時もHiedraHはFacebookを通して独自の考えを述べたり、積極的にデモに参加したりしています。
また彼らはデモの一環として公道を占拠しレイブをしたりします。
その後2015年になるとTRRUENOが誕生し、そしてAGVAが誕生します。TRRUENO 28DICでパフォーマンスしてくれた#VIVASは”Banco de Sonidos (声が集まる場所)、Experiencias colectivas(集団的実験)”、”Feminista”を掲げ実験的なパフォーマンスをしています。
#VIVASはフェミニスト的な観点からデモやマニフェストの音を拾い使用し、メンバーは自らの体で空間を表現します。そうして個々のメンバーで再構築し、できた空間を”Territorio de conquista(支配領域)”として彼らは呼びます。
MartteinはAgvaritualに定期的に出演し、Alp Recordsからもリリースしているプロデューサーです。彼も自らの叫びやマニフェストをノイズに落とし込みライブパフォーマンスをしています 。彼らもまた性の平等を主張します。
ラテン語を起源とするスペイン語には、女性名詞、男性名詞が存在します。例えばAmigos(男友達) 、Amigas (女友達のみ)と、OとAで性を区別します。Amigosだと(男友達だけ)ではなく、女も混ざっている「友達」という意味になります。男女平等を主張する者たちは、このスペイン語のルールである性名詞を変えたのです。例えばAmigosはAmigxsのように、OとAを「X」に置き換えます。子供を意味するChicos とChicasは、Chicxsとなります。これらをパーティーの告知に使っているのをよく見ます。
アルゼンチンにおけるエクスペリメンタリズムとは、政治的社会的要因と深く結びつき、それはある種のマニフェストとして他ならず、彼らはポストレイブカルチャーとして(法的束縛、社会的束縛の)外側の自由を追い求めているのだと僕は思います。
《前回の記事》
ベースミュージックの「新次元」を予感させる、アルゼンチンのクラブシーンについて
たくさんの方に記事を読んで頂き大変光栄です。それ以降アルゼンチンのクラブシーンを更に知りたいという好奇心で様々なパーティーに参加しました。
参加するだけでなくDJをし、またパーティーオーガナイズもしました。1年間クラブシーンを見て思ったこと、感じたことそして事実を書き留めました。前記事の続編として是非ご覧ください。
目次
・アンダーグラウンドシーン・レイブシーンの発展と変化
・アルゼンチン生まれの高速ダンスミュージックCuarteto(クアルテート)
・アルゼンチンのパーティレポート
・「ポリティカルカルチャー」としての機能
・最後に
・アンダーグラウンドシーン・レイブシーンの発展と変化
・アルゼンチン生まれの高速ダンスミュージックCuarteto(クアルテート)
・アルゼンチンのパーティレポート
・「ポリティカルカルチャー」としての機能
・最後に
アンダーグラウンドシーン・レイブシーンの発展と変化
これはイタリアのサウンドシステムチームKernel Panikの南米レイブプロジェクト“SOUTH SIDE MISSION”のビデオです。
彼らは2006年にこのプロジェクトを始動し、サウンドシステムを乗せた何代ものトラックともにアルゼンチンを訪れました。アルゼンチンからパラグアイそしてブラジルに旅をし、レイブを主催してきました。80年代後半にUKで生まれアンダーグラウンド・レイブムーブメントは、ヨーロッパのみならず、この南米の大陸にもありました。
彼らは、この大陸にレイブのポテンシャルを見出しこのプロジェクトを始動させました。このポテンシャルの源流にはヒッピーカルチャーがあり、その根底にインディオ(先住民)の自然崇拝や精神文化があるんじゃないかと思います。事実、南米には、まだまだ先住民の血筋を持つ者が多く、彼らは今でも慣習に倣った生活をしています。(ブラジルは詳しく分からない)また彼らは、ペルー、チリ、アルゼンチン北部(サルタ、フフイ、コルドバ) といった山岳地帯に住んでいることが多いです。
アルゼンチンの首都はブエノスアイレスです。
ブエノスアイレスは、「ブエノスアイレス州(色の塗られた地域)」と「連邦首都ブエノスアイレス市 (中央の濃い緑部分だけ)」の2つの呼称があります。ややこしいですが、ブエノスアイレス州のなかに連邦首都ブエノスアイレスは地理的にありますが、州には所属していません。つまり特別区として連邦首都ブエノスアイレス市に分けられています。(イタリアとバチカン市国と同じ関係性)
ブエノスアイレスは、「ブエノスアイレス州(色の塗られた地域)」と「連邦首都ブエノスアイレス市 (中央の濃い緑部分だけ)」の2つの呼称があります。ややこしいですが、ブエノスアイレス州のなかに連邦首都ブエノスアイレスは地理的にありますが、州には所属していません。つまり特別区として連邦首都ブエノスアイレス市に分けられています。(イタリアとバチカン市国と同じ関係性)
現在のブエノスアイレスのレイブシーンは、ウェアハウスなど廃墟を占拠したパーティーよりも、Parqueと呼ばれる広い公園に機材を持ち込んだり、サウンドシステムとレーベルが協力し主催するものが多いです。そしてこれらは、連邦首都ブエノスアイレス市で開催されることが多かったです。
しかし、2016年薬物乱用死亡事故以来(国内音楽フェスにて薬物関連で5人が死亡)、クラブカルチャーに対する政府の監視が厳しくなり、開催することが以前より、かなり厳しくなりました。
以前の記事で紹介したメインストリームやエクスペリメンタルといった合法的なパーティーや音楽が連邦首都(東ブエノスアイレス)で消費されるのに対し、レイブは首都から郊外(西、南ブエノスアイレス)に徐々に移り変わっていきました。
しかし、2016年薬物乱用死亡事故以来(国内音楽フェスにて薬物関連で5人が死亡)、クラブカルチャーに対する政府の監視が厳しくなり、開催することが以前より、かなり厳しくなりました。
以前の記事で紹介したメインストリームやエクスペリメンタルといった合法的なパーティーや音楽が連邦首都(東ブエノスアイレス)で消費されるのに対し、レイブは首都から郊外(西、南ブエノスアイレス)に徐々に移り変わっていきました。
どうして彼らは郊外に移り変えたのか?
それは、西、南ブエノスアイレスがインナーシティで政府の監視が緩いからです。
アルゼンチンにもヨーロッパのGhettoやブラジルのFavelaみたいにVillaという貧困地区があります。連邦首都にもVillaは存在しますが、郊外に出るとその数は顕著に多くなります。(2番目に濃い緑部分だけ)
郊外も地域にもよりますが、頻繁に犯罪が多発している地域もあれば、穏やかな地域と入り混じった所もあります。いずれも彼らは連邦首都と比べ政府の監視が緩いこの西、南ブエノスアイレスにレイブの拠点を移り変えたのです。
外国人の僕もこっち方面に行くときはいつも以上に警戒していました。何より雰囲気が首都と全く違います。
それは、西、南ブエノスアイレスがインナーシティで政府の監視が緩いからです。
アルゼンチンにもヨーロッパのGhettoやブラジルのFavelaみたいにVillaという貧困地区があります。連邦首都にもVillaは存在しますが、郊外に出るとその数は顕著に多くなります。(2番目に濃い緑部分だけ)
郊外も地域にもよりますが、頻繁に犯罪が多発している地域もあれば、穏やかな地域と入り混じった所もあります。いずれも彼らは連邦首都と比べ政府の監視が緩いこの西、南ブエノスアイレスにレイブの拠点を移り変えたのです。
外国人の僕もこっち方面に行くときはいつも以上に警戒していました。何より雰囲気が首都と全く違います。
Hardtek/Pumpcoreのプロデューサー、STZ Steaotekと交わしたチャットによると、「首都でレイブをやるのは、以前に比べてだいぶ難しくなった。ただ、今でも首都でやれないことはない。拠点を首都から西、南の郊外に移したことで変化があった。それは客の質だ。以前まではとにかくレイブパーティーが好きという奴が多かった。だが、首都から離れたことでその数は少なくなった。場所にもよるけど、治安警察もましにはなったけどね」とのことでした。
具体的なレーベルやパーティーを紹介すると、有名どころで言えばRound Wave Crusher主宰のHard Sprit(レーベルではなくCrew)やArtek Recordsをはじめ、TribeやMental 、RaggatekレーベルのDigitalTek23、そしてDrum&BassやBreakcoreレーベルのKiller Drumz 、の国産レーベルが有名です。また、Revolución RaveやAquí y Ahora、HardRave、Matrakなどがレイブパーティーをしています。(もうどれがCrew、レーベル、パーティー名なのかが本当分からない)
これらのワードをFacebookにかけると、芋づる式に情報が出てくるので興味ある方は是非~
アルゼンチン生まれの高速ダンスミュージックCuarteto(クアルテート)
これは、クラブミュージックではなく、ポピュラーミュージックに分類されるのですが、番外編として1つ気になったジャンルCuarteto(クアルテート)を紹介したいと思います。
国内ではレゲント、クンビア、ラテンロック、また以前紹介したラテントラップがポピュラーミュージックと言えるでしょう。広大な土地を持つアルゼンチンは、州によって異なった文化があります。このCuartetoはアルゼンチン中央に位置するコルドバ州で生まれたクンビアの一つとしてのポピュラーミュージックです。ラテン音楽といえばBPM100や130前後が広く一般的です。それに対してこのCuartetoはBPM140~170でとにかく速いです。(ここ重要)
Wikipediaによると、Cuartetoは1940年にアルゼンチンのコルドバ州で誕生しました。
最初は身分の低い者達で踊られていましたが、90年代までには身分関係なく広く踊られるようになりました。その後、他の州やブエノスアイレスそして世界中に普及します。私は国内旅行の時に、このCuartetoに出会いました。
コルドバ州やサルタ・フフイ州(上の写真)といった北の地方に行った際に街中でクンビアと共に街中でよく耳にしました。ブエノスアイレスで聞いた覚えはあまりないです。パソコンがない時代にピアノ、アコーデオン、バイオリン、コントラバス、ボンゴのバンドスタイルで生まれた音楽なので今でもそのスタイルが主流です。
インドネシアのFunkotみたいにすごくローカル性が高いです。SoundcloudよりもYoutubeの方が一般的なのでYoutubeにMixや楽曲が多くあります。Soundcloudにもリミキサーと呼ばれる人がちらほらいますが、極少数で最後にアップロードしたのが2,3年前だったりします。
近年Baile FunkもBPMが上がったりしていますが、速いラテン音楽って結構珍しいと思います。速いローカルダンスミュージック好きな方には是非オススメです。いつか日本のクラブでもかけられたらな~と思います。
アルゼンチンのパーティレポート
アルゼンチンのクラブは日本みたいにDJ中突然テキーラがとんでくることはまずありません。そもそもちっちゃなお酒が存在しないのです。
ビール、モヒート、カクテルが一般的ですが、日本みたいに種類もそんなに多くないです。価格は80ペソ~120ペソ(日本円で240円~360円)とかなり安いです。それでもバーやキオスコ(コンビニ)に比べると割高のため、バーや家で前飲みして夜中の1時くらいからクラブに行くのが一般的だそうです。
アルゼンチンには、フェルネットという薬酒が国民酒としてあります。もともとイタリアの国民酒で、イタリア移民が多いアルゼンチンでもポピュラーです。味は、日本でもパーティードリンクとして一時期流行ったイエガーマイスターとほとんど同じです。これをコカ・コーラで割って飲むのが広く一般的なのです。
こんな感じに。
だいぶ癖が強いですが慣れると結構いけます。アルゼンチンも野外飲酒合法でみんなガブガブと公園で友達とたむろして飲んでいます。
こんな感じに。
だいぶ癖が強いですが慣れると結構いけます。アルゼンチンも野外飲酒合法でみんなガブガブと公園で友達とたむろして飲んでいます。
以下は、実際に自分が参加したパーティや、主催したパーティー「𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲」などのフライヤーと動画です。ぶれぶれなカメラワークですが、パーティーの雰囲気だけでも是非ご覧下さい。
〇TRRUENO 28DIC
TRRUENOはBungalovv主宰(以前間違えてAstrosukaって書きました)のアルゼンチンのエクスペリメンタルレーベルです。クラブイベントというよりは国内で実験的なパフォーマンスをやっているアーティストの実験的なパフォーマンスパーティーです。この動画は、インスタレーションアーティストのReina CaiとハイブリッドクラブのOkte、そしてノイズユニットLa Muerteのコラボパフォーマンスです。
〇HiedraH Club de Baile #57
HiedraHはYbán López率いるアルゼンチンのバイレレーベル。#57というのはこれまでに開催したパーティーの数で、2013年に誕生し他のレーベルと比べると結構老舗です。ZutzutやDjwheyなど中南米のバイレアーティストを呼んでグローバルにやっています。2013年からバイレをやっているレーベルって当時から見たらだいぶ先見していると思います。どのパ-ティ-も常に人で溢れかえっています。後で紹介しますが、HiedraHやTRRUENOそして次に紹介するAGVAこの3つはアルゼンチンのクラブシーンにおいてポリティカルな役割を果たしています。
〇Agvaritual
AGVAはアルゼンチンのトライバルメタルレーベル。2015年に誕生し、アルゼンチンのローカルDJを巻き込んで、去年から定期的なレーベルパーティーを始動しました。
僕も一度パーティーに呼ばれDJをさせてもらいました。初年のAgvaritualを締めくくるパーティーですごく緊張したのを今でも覚えています。レーベルの規模はまだまだ小さいですが、メキシコのNAAFIや隣国ウルグアイのSALVIATEKそして日本のCHEMICAL MONSTERSとも交流があり、アルゼンチンで今一番勢いに乗っているレーベルだと思います。先日リリースした「𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲 compilation album」には全メンバー参加してもらっています。
〇NETZ #2 : ηεẘ ღ℮∂ї@ ⓟⓐⓡⓣⓨ
グラフィックデザイナー/プロデューサーOblinof主催のパーティー。他のパーティーが首都ブエノスアイレスで開催されるのに対し、このNETZはラプラタという首都から1時間離れた街で開催しています。国内のChiptuneやライブコーディングなどインターネットなアーティストや、Voyagerというラプラタを拠点としているグラフィックマガジンがインスタレーションをしています。
インターネットを代名詞にしていますが、ローカル色が強いのがいい塩梅です。このNETZでもDJをさせてもらいました。Oblinofのインターネットなグラフィティはかっこよく𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲ではVJをしてもらいました。またコンピにも参加してもらっています。
〇FINEST FANTASY
Lhgchps主宰のFINEST FANTASYと協力して誕生日にパーティーをやりました。UKからKlahrkが友達のRoxasに会いに一週間ブエノスアイレスに滞在する、と聞いて滞在日程と偶然重なりブッキングしました。(これ本当にたまたま)
KlahrkとRoxasのユニット”quavis”もここから誕生しました。友達のEqalやEvarそしてHalpeにもDJしてもらう予定でしたがHalpeは急遽キャンセルになってしまい、代わりに一番見たかったChloに出演してもらいました。そんな濃いメンツのなか自分も人生初DJでした。(初DJに外タレ扱いのJPN)
430というアジアレストランの地下のバーに機材、スピーカーを持ち寄りDIY的にやりました。
〇𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲
初の主催パーティーをしました。この1年間出会ったアーティストを招集し面白そうな組み合わせでの全B2Bパーティー。僕自身ジャンルにかなり雑食で、様々なパーティーに足を運びましたが、一度に見たいな~という思いをずっと持ち続けていました。FINEST FANTAY、AGVA、TRRUENO、HARD SPRIT、4つの異なったジャンルコミュニティーに参加してもらい、普段はそれぞれが独立してパーティーをしています。
HARD SPRITとはこのパーティーまで関わりもなくコンタクトもしたことなかったです。ただ、どうしても最後に一目見たいという思いでブッキングすると、快く受けてくれました。VJは先程紹介したOblinofとEqalの双子の弟Nahuelにやってもらいました。また、フライヤーは、友達のAriadnaに依頼しました。
もともと頭の中に構想はありましたが、勉強の方が忙しく1月11日(金)開催予定で動き出したのが10月半ばでした。(遅い)せめて1ヶ月前にはラインナップを出したいな~と思っていましたが、急遽アーティスト側からキャンセルがあったりして実際このメンバーで告知解禁できたのが開催一週間前でした。ギリギリまで参加できるか分からないアーティストが多かったので、ブッキングはグループを作らずそれぞれのアーティストと個人チャットでやりとりをしました。個人チャットのブッキング、フライヤーのデザイナーやVJまた会場側とのやりとりをすべてスペイン語でやり遂げたことは本当自信になりました。
そして開催3日前、せっせと告知しているとなんと会場側が「その日は無理だ」と急遽キャンセルをしてきました。(こーゆうとこアルゼンチンぽい)
最初唖然で言葉が出ませんでしたが、1月18日(金)に日程を移すと言われました。幸い他のアーティストもその日は何も予定なく何より僕の帰国5日前で、もし一週間早く航空券を買っていたらと考えると本当恐ろしいです。開催当日までハラハラしており、いざ始まってからもタイムテーブルのやりとりで忙しくあっという間でしたが、お客さんもたくさん来てくれて何とか無事に終わってくれて本当よかったです。最後にいい思い出ができました。
「ポリティカルカルチャー」としての機能
2018年6月、アルゼンチンの人工中絶を合法化する法案が下院を通過しました。
その時街は歓喜の渦に包まれ、緑色のバンダナを手に友達、恋人と抱き合う光景がタイムラインに流れてきたことを今でもよく覚えてきます。人工中絶合法化(Aborto Legal)は今日アルゼンチンにおいて一番の社会テーマであり、それはエネルギッシュな若い世代を中心に興りました。アルゼンチンのクラブシーンを作る彼らにとってもこのAborto Legalは切っても切り離せないテーマです。そもそもアルゼンチンは、マイノリティー(LGBTやフェミニスト)の力が強く、社会、政治に対するデモがすごく多いです。
少数的なアイデンティティを持つ者、いわゆる社会的マイノリティーの叫びを顕在化し促進することを掲げ、2013年にバイレレーベルHiedraHが誕生しました。「アバンギャルドはいつも社会の外側から興るが、社会の波に飲まれないために抗い続け必要がある」と彼らはマニフェストします。Aborto Legalの時もHiedraHはFacebookを通して独自の考えを述べたり、積極的にデモに参加したりしています。
また彼らはデモの一環として公道を占拠しレイブをしたりします。
その後2015年になるとTRRUENOが誕生し、そしてAGVAが誕生します。TRRUENO 28DICでパフォーマンスしてくれた#VIVASは”Banco de Sonidos (声が集まる場所)、Experiencias colectivas(集団的実験)”、”Feminista”を掲げ実験的なパフォーマンスをしています。
#VIVASはフェミニスト的な観点からデモやマニフェストの音を拾い使用し、メンバーは自らの体で空間を表現します。そうして個々のメンバーで再構築し、できた空間を”Territorio de conquista(支配領域)”として彼らは呼びます。
MartteinはAgvaritualに定期的に出演し、Alp Recordsからもリリースしているプロデューサーです。彼も自らの叫びやマニフェストをノイズに落とし込みライブパフォーマンスをしています 。彼らもまた性の平等を主張します。
ラテン語を起源とするスペイン語には、女性名詞、男性名詞が存在します。例えばAmigos(男友達) 、Amigas (女友達のみ)と、OとAで性を区別します。Amigosだと(男友達だけ)ではなく、女も混ざっている「友達」という意味になります。男女平等を主張する者たちは、このスペイン語のルールである性名詞を変えたのです。例えばAmigosはAmigxsのように、OとAを「X」に置き換えます。子供を意味するChicos とChicasは、Chicxsとなります。これらをパーティーの告知に使っているのをよく見ます。
アルゼンチンにおけるエクスペリメンタリズムとは、政治的社会的要因と深く結びつき、それはある種のマニフェストとして他ならず、彼らはポストレイブカルチャーとして(法的束縛、社会的束縛の)外側の自由を追い求めているのだと僕は思います。
アルゼンチンのAborto Legalやフェミニスト運動において興味深いのは、あまり政治色が見えずユースカルチャーの一部に溶け込んでいるところです。
例えば、この緑のバンダナは Aborto Legalの賛成派の象徴で、町に出ると若い世代を中心に多くの人がリュックサックやカバンにバンダナを付けています。Aborto Legalを支援する有名な歌手や女優がメディアに出演する際にもこのバンダナを体の一部に着けているのをよく目にしました。このバンダナは2018年6月の新聞によると、なんと100万枚国内に流通したそうです。
例えば、この緑のバンダナは Aborto Legalの賛成派の象徴で、町に出ると若い世代を中心に多くの人がリュックサックやカバンにバンダナを付けています。Aborto Legalを支援する有名な歌手や女優がメディアに出演する際にもこのバンダナを体の一部に着けているのをよく目にしました。このバンダナは2018年6月の新聞によると、なんと100万枚国内に流通したそうです。
また、WTTJはユニセックスでAborto LegalやAntipatriarcal(反家父長制)を掲げたファッションブランドです。広告のモデルにフェミニスタやAborto Legalを支援する団体の著名人を採用したりしています。明るい蛍光色のビニールチックな素材が特徴的です。
また、KIJJJIは日本のアニメや作画に影響を受け、フェミニスタやAborto Legalをコンセプトとする作品も手掛けているファッションブランドです。可愛く落とし込んだのが特徴的です。
初DJ、初オーガナイザー、と本当に濃い一年をアルゼンチンで過ごしました。
実はというと、最初の記事を書かせてもらう前、AGVAやTRRUENOと一切関わりがありませんでした。エクスペリメンタルというジャンルも知らず、ネットの記事を頼りに書いたものを「初めまして!今アルゼンチンに住んでいて、こんな記事を日本語で書いたんだ」というメッセージとともにメッセンジャーを送ったことがすべての始まりでした。
もし、sanmal君から6月にその記事の依頼がなかったら𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲も実現しなかったでしょう。本当に感謝です。
そして何より、音楽を通して快く迎え入れてくれた現地の友達に本当に感謝です。今度は是非彼らに日本のクラブシーンを知ってもらいたいし、来日した際には何かサポートの恩返しができたらと思っています。
また、KIJJJIは日本のアニメや作画に影響を受け、フェミニスタやAborto Legalをコンセプトとする作品も手掛けているファッションブランドです。可愛く落とし込んだのが特徴的です。
この服のモデルは先日「𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲 compilation album」にも参加してもらったDJ/プロデューサーのMAAYでTRRUENOと深い交流があります。
このようにアルゼンチンではAborto Legalやフェミニストといったポリティカルな問題がクラブミュージックやファッションの一部にとしてユースカルチャーに深く浸透しているのです。
最後に
初DJ、初オーガナイザー、と本当に濃い一年をアルゼンチンで過ごしました。
実はというと、最初の記事を書かせてもらう前、AGVAやTRRUENOと一切関わりがありませんでした。エクスペリメンタルというジャンルも知らず、ネットの記事を頼りに書いたものを「初めまして!今アルゼンチンに住んでいて、こんな記事を日本語で書いたんだ」というメッセージとともにメッセンジャーを送ったことがすべての始まりでした。
もし、sanmal君から6月にその記事の依頼がなかったら𝔭𝔦𝔭𝔦 𝔠𝔲𝔠𝔲も実現しなかったでしょう。本当に感謝です。
そして何より、音楽を通して快く迎え入れてくれた現地の友達に本当に感謝です。今度は是非彼らに日本のクラブシーンを知ってもらいたいし、来日した際には何かサポートの恩返しができたらと思っています。
参考・引用:
http://remezcla.com/lists/music/buenos-aires-club-collectives/
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